【社長BLOG】トークン化された有価証券とICOとの関係性

GEMSEE

 最近STO(Security Token Offering)について問い合わせ・相談を受けることが多く、また米国での事例は先行しつつも日本ではまだ実現していないこともあり、今回のブログでは、正確な理解が難しいSTOについて、ICO・既存の有価証券投資と比較しながら整理してみたいと思います。

 

 尚、現時点におけるSTOの理解に基づき記述しておりますので、今後は全く別の方向に進む可能性、私の理解が誤っている可能性は否定できませんのでご了承ください。

 

ICOとSTOは似て非なるもの


 ICOの抱える問題を解決すべく、ICOの発展系として登場したように思われるSTOですが、私の理解ではICOとSTOは全く別物です

 

 2017年後半から米国を中心にICOの課題を解決するために生まれた手法がSTOです。ここまでは正しいと思います。ICOは仮想通貨らしきデジタルデータを金融規制の枠外で販売し、資金を調達していましたが、STOは「有価証券」として証券法に則り、勧誘・募集される点が異なります。しかし、有価証券による資金調達であれば既存の資金調達と変わりません。なぜSTOが騒がれているのを考えてみたいと思います。

 

 米国での事例を参考にすると、STOの対象としてトークン化されるアセットは様々です。株式・債券だけでなく、不動産なども対象となるようです。収益の分配・他人の努力による値上がり期待などが含まれるものは証券に分類されます。これらのトークン化された証券を事業者として取扱うには、ブローカー・ディーラー・ATS(PTS)等のライセンスが必要になります。これまでのICOではライセンスなしで取り扱われることがほとんどでした。

 

 そうなると、一見すると調達側にとっては不利に見えるSTOがICOに代わる手法として注目される理由がわかりません。ICOバブルに懸念を抱いた事業者の方針転換にも見えますが、ICOとSTOでは対価となるモノの価値が大きく異なります。

 

 調達サイドの認識としてこれまでのICOは「経営コントロールを維持しつつ、返済義務の発生しない都合の良い資金を、煩わしい規制なしにグローバルで短期間に調達できる仕組み」でした。STOの場合、投資家の権利は証券法(日本でいう金商法)で保護されており、通常は勧誘可能な投資家も、発行登録制度の都合で適格投資家に限定されます。調達サイドの利便性は明らかに低下しています。

 

 適用される法律・証券トークンの経済的価値から判断しても、STOによって発行される証券トークンは既存の有価証券の延長に位置し、ICOトークンの発展系ではありません。ICOトークンから継承しているのはその技術的な仕組みであり、経済価値・法的枠組みは従来の有価証券のフレームを継承しています。ネーミングが紛らわしく、ICOと一緒に説明されることが多いことも誤解される要因かと思われます。

 

トークン化された有価証券とは?


 STOの説明でよく見かけるものとして、「株式等の有価証券をトークン化したモノ」という説明があります。しかし実はこれは説明になっていないと私は思います。未上場企業の株式の多くは券面不発行であり、上場有価証券は電子化されています。「トークン化」というものが、ある種の権利を表章する概念であるならば、会社という価値をトークン化したものが株式であり、既存の有価証券自体が既にトークン化の産物と言えます。既に一度トークン化された結果である株式を更にトークン化した「証券トークン」という矛盾がここに発生します。

 

 STOは一見するとICOのラッピングを付け替えただけのようにも見えますが、ICOとは別物であり、技術的な側面からの評価を加えて好意的に解釈すれば、既存ファイナンスの発展系になる可能性があるかもしれないと思います。

 

 有価証券トークン化の前提となる事項を取り上げつつ、整理を進めます。

 

  1. 既存の有価証券とトークン化された有価証券の有する経済価値は同一
  2. STOはICOとは異なるので仮想通貨プレミアムは発生しない。
  3. トークン化された有価証券であっても既存の有価証券と同一の法律を準拠する必要があるため、発行・勧誘・流通は既存の有価証券と同様の規制を受ける

 

 当たり前ですが、名称が変化しても有価証券として有する経済的価値が同一であれば価格は同一になります。STOはICOと名称が似ていますが、これまでの説明のとおり、仮想通貨ではなく株式等の有価証券であることから、根拠のないプレミアムを価格に反映させることは出来ません。価格は従来通りその企業価値に収斂します。また有価証券である以上、伝統的な有価証券同様の規制プロセスに従う必要があります。有価証券トークンを整理・分解していくと、だんだんとその実態が見えてきます。

 

有価証券トークンの必要性と付加価値

 

 STOのような新しい仕組みが登場すると、トークン化された有価証券を発行することを目的とした資金調達、という意味のわからない事案が起こり得る可能性が発生します。言うまでもありませんが、トークン化は手段であって目的ではありません。本来、トークン化という手段によって実現させたい目標が別途存在するはずです。投資家・調達企業双方にとってトークン化された有価証券を発行すること、それに投資することにどのような意義があるのでしょうか?

 

 前述のとおり、有価証券をトークン化したところで本質的な経済的価値は変わらないし、調達企業も既存のプロセス・規制に従わなければなりません。この前提が覆らない限り、STOは双方にとって大きなメリットは存在しないと思われます。

 

 「トークン化」を単体で捉えるとこのような評価となってしまいますが、STOは「未上場有価証券の発行・管理・流通の効率化」という目標の実現に向けたプロセスであり、トークン化はその技術要素の一つと整理することで、意義が見いだせるのではないかと思います。

 

 現状、トークン化が進んでいる領域は未上場有価証券です。上場有価証券は多数のプレイヤーによる取引エコシステムが出来上がっており、既存の仕組みのリプレイスは非常に困難です。既に一定レベルで高度なオペレーションと決済システムが構築されている領域への適用は、困難な割に得るところが少ないと思われます。

 

 ここで未上場有価証券領域への適用で期待できる効果を整理したいと思います。

 

  1. 小さな管理者の実現
  2. レイヤー圧縮効果
  3. P2P取引の促進
  4. トレーサビリティ・可視化
  5. 共通規格の有価証券インフラの導入

 

 未上場有価証券は一般的に「発行・管理・流通」を支えるインフラが整備されていないケースが多く、中小企業が個社毎に株式(株主)・社債(社債権者)の管理に努めています。このような状況下においては、トークン化された有価証券と関連する諸機能を一体化して提供することで、上記の「未上場有価証券の発行・管理・流通の効率化」の達成に近づくのではないかと考えられます。

 

 また、未上場有価証券の発行・管理・流通に共通のインフラを適用することができれば、企業・投資家双方にとって管理の手間を削減しつつ利便性の向上が期待できます。

 

 この前提に立つと、トークン化とブロックチェーン技術の効果として上記の1~4が挙げられると私は考えます。上場有価証券と異なり、大きな管理者が不要で、仲介者を極力排した当事者同士の取引の下地が形成され、取引がよりシンプルになり、取引履歴の把握が容易となり、可視化を通じて譲渡性が高まることが期待されます。どれも間接的でそれぞれの期待効果はそれほど大きくなさそうですが、これらが積み重なることで環境は大いに改善され、「未上場有価証券の発行・管理・流通の効率化」が実現できるのではないかと思います。

 

 国内に上場している企業数は約4,000社ありますが、未上場企業は比較にならないくらいに存在します。この巨大なマーケットに対して前述のSTOとトークン化が寄与するのであれば、取り組む価値はあるのではないのでしょうか。STOをICOに代わる簡単に儲けることが可能な投資手法と想定されていた方には残念な結果となりますが、トークン化された有価証券と発行・管理・流通基盤としてのブロックチェーン技術の活用は、安価で小さな金融インフラとしてワークするのではと考えています。

 

 ただし、STOに最適化したインフラが構築されたとしても、どのようなモノを流通させるかは注意を要する課題として残ると思います。既存のSTOプロジェクトを見ていると、様々な資産をトークン化させ流通させようとしていますが、トークン化する原資産によってはトークン化された有価証券の真正を担保できないケースが存在します。

 

 無権利者による取引・二重譲渡・倒産隔離など、既存の証券化スキームにおける論点は、トークン化でもそのまま適用されます。トークン化された資産は、特定のプラットフォーマーの管理するシステム上では正しく取引されていても、システム外で同一資産の二重譲渡などを防止する仕組みがないとワークしません。

 

 その点、株式や債券の場合、発行体による株主名簿・社債原簿の管理という処理となっているので、関係者間で完結可能であることで上記課題を解決しています。逆に不動産や第三者対抗要件を持たない動産をトークン化した場合、適切なスキームで処理しない限り、登記等の当事者完結できない外部プロセスによる対抗要件取得プロセスが残り、内部完結出来ないため手間がかかると思われます。

 

 STOの可能性について色々と考えてみましたが、トークン化された有価証券の取り扱いは黎明期にあることは確かなので、適用対象の拡大にはまだまだ工夫が必要とも感じました。将来的にはローカル完結が基本の金融インフラの慣習を突破し、各国のインフラが互換性を持ち、グローバルな流通に寄与できたとしたらとても画期的なことだと思います。

 

 まずはSTOの実務における有用性の証明・フローの確立が重要であり、当社としてもこの点について引き続き検討を進めていきたいと思います。