【社長BLOG】証券業界におけるブロックチェーン技術の適用と課題(2)

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 前回に引き続き、証券業界におけるブロックチェーン技術の適用と課題、という観点で過去に取り組んだ実証実験を題材に、整理と振り返りをしていきたいと思います。前回投稿は下記を参照ください。

 

blog.sbicb.co.jp

 

※本ブログ投稿内容は、筆者個人の見解であり、株式会社SBI証券及び筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。以下の斜体文章は2016年当時の整理内容です。

評価・考察 その1

 

 ブロックチェーン技術の証券業務への適用を検討する際に、どの業務・商品・サービスを検証対象とするかの選択が重要となる。ブロックチェーン技術はP2P技術を利用してノード間のデータを同一に保ちつつ、独自のコンセンサスアルゴリズムを用いてノード間の合意を取りながら承認するプロセスを経るため、一般的なクライアント・サーバーモデルにおける集中管理方式に比べ、パフォーマンスが出にくいと言われており、上場株式の取引など高頻度取引商品のマッチング処理との親和性は高くない。

 

 また、訂正・取消の発生等を考慮すると承認されたデータの変更が容易に出来ないブロックチェーン基盤上での処理は、既存システムと比較して優位性を保持しているとは言い難い。OTC取引のような取引頻度が低いケースでは、ブロックチェーン技術を用いた分散プラットフォーム上でマッチング処理することは、懸念は少ないと考えられるが、訂正・取消処理の懸念は残る。

 

 業務観点から整理すると、「商品組成」「証券登録・決済」「ポストトレード」と相性が良いと思われる。ポストトレード処理への応用は各国の大手金融機関・取引所・清算・決済機関が取り組んでおりメジャーなテーマと言える。

 

 取組み姿勢は様々で、既存の業務プロセスを前提に効率化を検討している事例から、抜本的なプロセスの見直しを検討している事例まで幅広く存在する。大枠で捉えると、既存のマーケットインフラの提供者が自社の業務効率化のために技術導入を推進するケースが多いのがポストトレード分野と言える。ポストトレード業務においてブロックチェーン技術が注目される理由として、分散型台帳に記録された内容を取引関係者が共有している前提が成立するため、コンファメーション負荷が削減可能で、台帳自体がCSDの振替口座簿データに相当することが挙げられる。

 

 サービスの観点から整理すると、ブロックチェーン技術は一種のシェアリングサービスと言える。データシェアリング、インフラシェアリングである。分散台帳技術による関係者間におけるデータシェアは、社内・社外のSTP化を推進するものと考える。組織を跨いだデータ共有は、社外におけるSTP化に貢献し、社内においては、フロント・ミドル・バックオフィスが同一データを参照することでデータの重複登録・不一致等のオペレーション負荷を軽減し、業務プロセス・コミュニケーションの効率化に繋がるものと思われる。適切なアクセス権限の管理を前提に運用されるのであれば、上記の観点からシェアリング効果が期待できる。

 

 2016年時点においては、ビジネスユースのブロックチェーンは取り組みが始まったばかりの段階でしたので、パフォーマンス懸念について言及していました。コンソーシアム前提の場合、処理性能は相当改善されており、その懸念は低下しています。

 

 2015~2016年頃は「取引所・清算機関・保管機関」等の大型プレイヤーが「ポストトレード」を中心に様々な検証を実施していましたが、最近はあまり噂を聞きません。数億~数十億程度かけたプロジェクトもあったと聞いていますが、現時点で、「主要業務において本番適用され、かつ期待された効果が検証できた」という話は聞きませんので、やはり本番適用には大きな壁が存在すると考えられます。

 

 既存業務・システムを置換しようとするからステークホルダーとの調整も相まって時間を要するのではないでしょうか。逆説的に考えると、新規ビジネスの基盤として制約が少ない環境で用いる場合は、比較的ハードルは低いと言えます。

 

 過去の実験では、「台帳自体がCSDの振替口座簿データに相当する」と評価しておりますが、本件に関しては現在も同様の認識です。法規制・ライセンス業種という参入障壁が存在するため、短期的に変化が起きることはないかと思いますが、本質的には技術の持つ「特性」が「組織」自体を代替する可能性を秘めていると言えます。この点を考慮すると、未上場有価証券の管理プラットフォームは、管理する組織を極力コンパクトにした安価なインフラとして機能するのではないかと考えます。

 

 ブロックチェーン技術が登場した初期(2014~2016年頃)は、様々な業種・業界において、「中央管理者不用説」(筆者が勝手に命名)が登場しました。ビットコインやイーサリアムのようなパブリック型が持つ特徴・性質をエンタープライズでもそのまま適用可能であるという前提の夢物語です。あわせて「手段の目的化」も頻繁に見受けられます。「ブロックチェーン技術を使って●●を提供すること」というのがその典型です。これは技術を過信し、トレンドに乗ることを意識するあまり、本質を見失った状況と言えます。

 

 一時期は「ブロックチェーン技術を活用した●●を提供予定」というプレスリリースを出すだけで株価が上昇するようなこともありましたので仕方ないかもしれませんが、上記の2点は初心者が陥る典型的な罠だと言えます。企業にとって、技術は組織目標達成の手段であり、目的ではありません。よって、導入メリットが明確に定義できなければそれは「不必要な投資」でしかありません。

 

 弊社は昨年ICO相談会を通じて多くのベンチャーのプロジェクト相談を受けてきました。中には本当の意味で社会的にも有用なケースもありましたが、多くのプロジェクトでは上記の罠に陥り、既存サービスと比較した有用性・必然性を示せない状況でした。

 

 ビットコインから始まったブロックチェーン技術の背景にある「非中央集権イデオロギー」の影響が強すぎるもの一因かと思います。これまで内に秘めていた一種の憧れが、技術的な革新によって社会的に実現可能だと示されたとき、多くの人は熱狂するかと思います。もちろん私もその一人でしたが、冷静に現実的に事業家として判断する場合、上記の観念は投資判断を狂わせる罠にもなります。

 

 今後、社会的にブロックチェーン技術を活用した実装が進むことは間違いないかと思いますが、熱狂の先にあるリアルを見極め、本当に有用なサービスを作り出す試みは始まったばかりです。投機としての仮想通貨でもなく、プロパガンダとしてのブロックチェーンでもない、企業組織・統治の在り方を変えるようなユースケースや、社会全体の維持コストを抑えるような応用に期待したいと思います。

 

 SBI CapitalBaseはICOの会社と思われる方も多いかもしれませんが、ブロックチェーン技術を応用した事業設計・コンサルも得意としております。事業モデルが資金調達プラットフォームであり「マッチング」がコアであるため、コンサル事業の積極的な営業・外部向けのセミナー等は行っておりませんが、個別でご相談いただければ、事業計画・プロジェクト設計から対応いたします。お問い合わせからご連絡ください。

 

sbicb.co.jp

 

 ブロックチェーンにおけるシェアリングは、一般的なシェアリングビジネス(UberやAirbnbなど)とは異なります。一般的なシェアリングビジネスは、サービス(自動車・住居等)をシェアし有効活用することでC2Cをマッチングさせていますが、本質はプラットフォームビジネスです。サービスの提供者は1社であり、データもUberやAirbnbに集約されます。協業を前提としたエンタープライズブロックチェーンの活用におけるシェアリングと、プラットフォームビジネスにおけるシェアリングは、その目的が異なると言えます。

 

 結構なボリュームになりそうなので、「評価・考察」パートは今後数回に分けて更新していきたいと思います。