【社長BLOG】証券業界におけるブロックチェーン技術の適用と課題(3)

GEMSEE

 当初期待されていたような実用化が進まないブロックチェーン技術のビジネス応用。証券業界も様々なユースケースの検証に取組んでいるものの、今しばらく時間を要する見込みです。過去の実験を振り返ることで未来へのきっかけとなることを願いつつ、引き続き整理していきます。前回投稿はこちらを参照ください。

 

blog.sbicb.co.jp

blog.sbicb.co.jp

 

※本ブログ投稿内容は、筆者個人の見解であり、株式会社SBI証券及び筆者が所属する組織の公式見解を示すものではありません。以下の斜体文章は2016年当時の整理内容の一部抜粋です。

評価・考察 その2

サマリー

 

一般的に破壊的イノベーションと呼ばれるプロセスは、ある種のトレードオフを強要する。用途に応じた必要十分な機能(※最良ではない点が特徴)の見返りとして、これまでになかった価値を得る。整理すると、システム処理性能・独自業務ロジック・独自業務フロー・単独意思決定に制限を加えることで、システムコストの削減・業務オペレーションの効率化・処理時間の短縮・外部支払いコストの削減等の効果を得られる。ブロックチェーン技術は、従来要件を全て満たしたままコスト削減が可能な魔法ではなく、利用者に一定の制約を課すことで新たな価値を生み出す。ただし、過去の事例と異なる点として、ブロックチェーンがP2Pベースの技術であるため、その性質を活かした応用を考えると協業が必要となり、オープンイノベーションの概念を取り入れた協調が求められる。業界全体の方向性も上記特性を見据えたものとなっており、世界中で様々な目的のコンソーシアムが設立されている。

 

 新技術が登場して注目を集めると、良い点ばかりに注目されがちですが、新技術は必ずしも既存技術の完全上位互換ではありません。これはブロックチェーン技術の応用についても当てはまります。持続的(継続的)な改善の場合、インパクトは小さくとも既存技術・サービスに対して上位互換となる場合が多いですが、革新的な技術の場合は軸が変化し、提供価値が異なります。

 

 これは一般に「イノベーションのジレンマ」と呼ばれるものに近い現象です。意外に盲点となっているのが「トレードオフ」の部分であり、多くのブロックチェーンプロジェクトでトレードオフとして犠牲になることが多く、利便性(ユーザビリティ)・性能については言及されることが少ないです。

 

 また、技術の特性上、効果的な活用を検討すると必然的に他の組織・関係者との「協業」が必要となる点が、難易度を上昇させています。(スケールメリットを追求する場合、参加者は多い方が効果的ですが、協業に伴う難易度は指数関数的に増加します)合わせて革新的なユースケースの場合、法的に問題がないかも整理する必要があり、更に時間・コストを要することとなります。

 

 過去の記事で、ブロックチェーン技術の活用は、「アプリケーションレベル」・「インフラレベル」に分けられると言いました。インフラレベルでの適用が実現できた場合は、「レイヤー圧縮」が期待できます。金融取引でも一般的な商取引でも、通常は複数のプレイヤー・プロセスによって構成されています。

 

 一連の流れを経て決済が完結するまでには、データ(価格・数量・日付等)の確認、モノの受渡し(資金決済・証券決済・モノの受渡し等)が必要です。取引は、小規模のうちは当事者同士で完結しますが、大規模になるとプラットフォーマー・管理者と呼ばれる第三者を仲介することが増えてきます。

 

 ブロックチェーン技術は、複雑化し多重レイヤー構造に陥った取引・業務プロセスに適用することによって、プレイヤー・プロセスの両面において圧縮を狙うことができるのではないかと思います。厳密には、完全な圧縮以外にも、取引の直接当事者以外の関与度合いが低下し、よりシンプルな構造に変化することを含みます。これは既存モデルの変革であり、抵抗勢力の反対が予想されるため、インフラレベルでの実用化は暫く時間を要すると思われます。

 

 個別の証券業務への適用について言及する前に総論を言うと、競争分野における協業・オープンイノベーションは、戦略上採用しにくい場合が多いですが、非競争分野におけるコスト削減・オペレーションの統一には、ブロックチェーン技術の応用は適切なアプローチと言えます。ブロックチェーン技術は、利害の一致する業界関係者の「非競争分野」においてシステム・業務・組織の観点から取り組むことが望ましいと言えます。

 

個別業務(一部抜粋)

登録・発行、証券決済

 発行・登録、証券決済は、従来のCSDの機能を想定している。有価証券の発行・登録、権利移転を複数の起債関係者が維持・管理するノード上でコンセンサスを取りながら更新処理することで、振替口座簿に相当する役割を担うことが可能となる。債券を含むOTC取引を対象とした場合、証券登録・決済は静的な業務処理であり高い処理性能を要求されることはなく、ブロックチェーン技術を用いた分散システム上で実現する業務として親和性が高いと言える。

 

 登録・発行、証券決済領域にブロックチェーン技術を適用する場合、その親和性は高いと考えます。コンソーシアム型も参加者を一定規模でコントロールしないと統制が効かないので、エンドユーザーとしてシステムを利用するユーザー、インフラ基盤の提供に関与するコアユーザー、という形で分ける必要があるかもしれません。

 

 本領域に関しては、技術・業務観点の課題ではなく、法律・統治観点の課題が根っこにあるかと思います。「金融市場インフラのための原則」を参照すると、まだまだブロックチェーン技術を応用した金融市場インフラの構築・運営には課題が散見されます。

 

引受

 引受業務は複数の関係者が関与する一定の処理フローに基づいた共同業務と表現できる。このタイプの業務ではブロックチェーン技術の特徴の1つであるデータシェアリング効果が業務効率化の観点から評価できる。異なる組織が同一データを利用して業務プロセスを見直すことで、コンファメーションに関連する負荷の軽減が期待できる。あわせてマニュアルオペレーション比率が高い業務分野でもあるのでシステムを導入することで社内外のSTP化を促進にも繋がる。 

 

 引受は、業務アプリケーションとしての実装はありかと思いますが、あくまでも選択肢の1つであり、無理して推進するほどではないような気がします。当時より一歩引いた目線で評価することで、自身の見解も客観視できます。前回コメントした「手段の目的化」には陥っていませんが、可もなく不可もなくという感じです。

 

債務引受

 清算機関の担う債務引受・カウンターパーティリスクの低減は、分散システムでの代替が不可能な機能であり、実証実験の対象外となる。

 

 ここはどうしても越えられない壁に感じています。元々、台帳としての役割を期待されるブロックチェーンシステムにおいて、振替口座簿の機能を担うことに違和感はありませんが、金融市場インフラの機能は様々であり、債務引受に関しては現状代替不可能ではないかと思います。カウンターパーティリスクの低減という観点では、ネッティングに関しては一定レベルは有効に機能するかと思いますが、選択可能な手法が限られているので効果は限定的となります。

 

スマートコントラクト

 電子契約・スマートコントラクトの課題詳細は後述するが、契約を構成する要素を「契約手続き」・「執行手続き」に分けて、前者を電子化、後者をスマートコントラクトによる自動執行によって処理することで、従来の契約手続きの効率化が期待できる。スマートコントラクト単体で従来の契約が担っていた機能を網羅することは難しく、真正証明・第三者対抗要件の具備・執行可能性・訂正/取消/遡及、等の観点において争点が残る。

 

 「スマートコントラクト万能説」に関しては説明が難しいのですが、簡潔に言うとそれほど万能ではない、ということです。何でもできる魔法の杖ではないので、実用化プロジェクトを推進する際に過信は禁物です。“技術的に出来る”ことと“実際にワークすること”は別次元の問題です。

 

 構成要素を「手続き・執行」に分けること、「真正証明・第三者対抗要件の具備・執行可能性・訂正/取消/遡及」などの観点は、実務に落とす際に必要不可欠な論点であり、サービスによって前提が異なる部分もあるので、金融で整理した理論が別業種で適用できるかは検証が必要です。(法律に関しては素人なので、詳しい話は本分野を専門としている弁護士の方へ確認ください)

 

 報告書が相当なボリュームなのでかなり省略していますが、各業務別に一言コメントを掲載しました。前回もコメントしましたが、CSD業務はブロックチェーン技術の適性が高く、完全ではありませんがかなりの部分をカバーできると思われます。インフラ・基盤レイヤーにおける活用には組織論・ガバナンスの論点がありますが、機能的にはなんとかなりそうな領域です。本シリーズはあと数回程度続く予定です。