ベンチャー企業の資金調達に係る実務

ベンチャー企業の資金調達に係る実務

 

SBI CapitalBaseリサーチ担当のファラロンです。

 

今回は、企業運営の中でも特に重要なイベントである資金調達、なかでもベンチャーファイナンスについて、米国の事例を交えながら日本ではどのような形が取られているのかを解説していきます。

 

ベンチャー企業の資金調達とは

資金の性質とシードマネー

 

初期段階のベンチャー企業が操業していくための資金を一般に「シードマネー」と呼びます。

 

このシードマネーの調達には、大きく分けて「エクイティ(株式などの資本)」と「デット(銀行借入などの負債)」による方法があります。

 

企業側から見た場合の両者の決定的な違いとしては、①返済義務の有無②利払いの必要性議決権の有無の3つに集約されます。原則として、これらの特性は投資家のリターンとトレードオフの関係になっています。

 

基本的な構造としてはエクイティには、①がなく、②も義務ではない代わりに③の議決権を投資家に付与する形になります。一方、デットでは①と②が義務として企業側に付与される代わりに、投資家に③の議決権が与えられることはありません。

 

しかし、上記の内容はエクイティとデットの基本的な性質であり、実際の資金調達のスキームとしては、両者の性質を併せ持ったものも存在します。

 

例としては、配当や残余財産の優先分配請求権を持つ「優先株式(デットの性質を持つエクイティ)」、他の債権よりも返済順位の劣る償還期限の定めがない「永久劣後債(エクイティの性質をもつデット)」、新株予約権が付帯した社債である「転換社債(デットからエクイティに変わる)」などがあります。余談ですが、転換社債の正式名称は「転換社債型新株予約権付社債」といいます。

 

優先株式を用いたブリッジファイナンス

 

資金調達の種類はさまざまですが、ベンチャーファイナンスでよく用いられる資金調達方法は、「ブリッジファイナンス」とも呼ばれます。これは、ベンチャー企業が大きく成長するまでに必要になるつなぎの資金という意味で、日本政策金融公庫や銀行などによる借入やエンジェル投資家からの第三者割当などが一般的です。

 

しかし、こうした資金調達方法以外にも、ベンチャーキャピタル投資でよく用いられる手法として「優先株式」を活用した方法があります。

 

優先株式とは、前述のように普通株式より優先される権利が付与された株式です。これが、具体的にどのように活用されるかというと、投資家のリスクヘッジとして機能します。

 

普通株式を用いた場合、投資先のベンチャー企業が想定より低い金額でEXIT(上場前にM&Aなど)したとすると、シードマネーを投じた投資家は損失を被ることが想定されます。これは、普通株式がEXIT時の金額から単純な持分比率に応じて金銭対価の分配を受けることになるからです(※1)。

 

しかし、優先株式であれば、予めEXIT時の分配額が1億円と定められ、その上で参加型(※2)による持分比率の収益を受け取ることができれば投資家はプラスのリターンを得ることができるという仕組みが出来上がります(※3)。

 

ベンチャー企業が上場するかどうかをシード期のうちから見極めることは困難であり、そのような投資に対して投資家が及び腰にならないようにするという狙いがあると考えられます。

 

ただし、良いことばかりではなく、①条件設定の複雑さ②種類株式に該当するため、株主総会と合わせて種類株主総会を開催する必要があることが実務運営上の煩雑さを招くこととなります。

 

こうした問題点を解決するために、米国を先例としたベンチャーキャピタルなどが用いる資金調達方法があります。それが、「コンバーティブル・エクイティ」と呼ばれるものです。

 

※1 例:投資金額が1億円で持分比率10%に対して、買収によるEXIT金額が5億円の場合、5000万円の損失(5億 * 10% - 1億 = -5000万)

 

※2 優先株式には参加型・非参加型の区分があり、これにより優先分配される金額以外に持分比率に応じた分配が得られるかどうかが定められています。

 

※3 例:5億円のうち1億円を投資家に優先分配し、残る4億円を持分比率(10%)に応じて分配すれば、4000万円の利益(4億 * 10% + 1億 = 1億4000万)

 

コンバーティブル・エクイティの必要性

コンバーティブル・エクイティが必要となる背景

 

前章で、ブリッジファイナンスとは、ベンチャー企業の成長を促進するための資金調達方法であると述べました。つまり、ベンチャー企業側の負担が大きくなりすぎては成立しないという前提があります。投資家のリスクヘッジのためにデットの性質を強くしすぎると、ファイナンスの本来の目的である企業の成長を阻害してしまうことに繋がると言えるのです。

 

加えて、シード期のベンチャー企業は非常に不安定な存在であることから投資性の見極めが困難です。

 

この問題にあたって、「コンバーティブル・エクイティ」に先駆けて「コンバーティブル・ノート」が開発されました。これは、貸付金の形で供給した資金を次のファイナンス時に株式に転換することで、上記のリスクをヘッジさせようという意図がありました。

 

しかし、シード期のベンチャー企業にとってはデットの性質をもつ貸付金は、バランスシートの悪化(負債比率の増加)を招き、日本においては資金を供給する投資家に貸金業のライセンスが求められる可能性があるという、別の問題が浮上してしまいました。

 

これらの問題を解決するために、デットの性質を排してエクイティのみの性質を持たせることで、よりシードマネーに適した資金調達方法が求められました。その手法が、コンバーティブル・エクイティなのです。

 

コンバーティブル・エクイティには、大別して以下の2つの手法があります(※4)。

 

※4 永久劣後債は、バランスシート上に負債として計上される性質を持っていることから、今回の説明対象には含んでいません。

 

J-KISS

J-KISSは、「簡単に早くシンプルに資金調達するための投資契約書」として説明され、500 Startups JapanによってSAFEに類似した手法であるKISS(Keep It Simple Security)を日本に適合させた形となります。

 

J-KISSは、上記の問題点をクリアするものであり、①新株予約権を投資家が有償で取得し、②企業が将来に資金調達する際に、予め定められた行使価格によって株式を取得することができます。

 

また、シード期の不安的なベンチャー企業のバリュエーション(企業の価値算定)にあたっては、検証するための要素が不十分なことがあります。J-KISSでは、この問題を事業実態が安定するフェイズまで先送りにすることができるメリットもあります。

 

つまり、投資家には生の株式ではなく、新株予約権に対して出資を募ることになるため、バリュエーションをその時点で行う必要がありません。加えて、配当や残余財産の請求権、議決権も付与されることがないため、ベンチャー企業側への純粋な資本増強と考えることができるのです。バリュエーションに係る交渉も省くことができるため、資金調達をスピーディに行うことができるのも強みとなります。

 

投資家側のメリットとしては、通常の新株予約権の権利行使時の払込と異なり、通常は1円に設定されているため、ほぼ無償で株式を取得することができます。つまり、有償で取得した新株予約権を株式に転換していると言えます。

 

また、テンプレートの契約内容では、1億円以上の資金調達が行われることが決定した際、J-KISSは優先株式に転換されます。もし、転換される前に買収される場合は、買収前に投資元本の2倍で金銭償還をするか、バリュエーションキャップ(※5)で普通株式に転換することが定められています。

 

懸念としては、相応に複雑なスキームとなっていることから、ベンチャー企業側が正しい理解を得られているかが問題になります。

 

※5 バリュエーションが高く付きすぎることで、転換後の株式数が過度に少なくなることを防ぐための上限額

 

みなし優先株式

みなし優先株式は、日本の慣行に合わせて普通株式を用いて、優先株式と同等の性質を契約によって付与するため、このように呼ばれています。

 

特徴としては、会社法上の普通株式を発行するだけでよく、設計や事務などの実務が馴染みやすく、非常にシンプルなものとなっていることです。しかし、生の株式を発行する都合上、投資時にバリュエーションについての議論が必要となる可能性が高くなります。つまり、バリュエーションを先送りにせず、その時点である程度の公算を立てておく必要があると言えます。

 

みなし優先株式は、次点のファイナンスが決定した際、優先株式と一対一の割合で転換されます。ここで問題となるのが、種類株式への転換の際に、全株主の合意をもって転換可能とする登記実務を利用していることから、実務負担の増加が懸念される点です。転換される前に買収される場合は、前述の優先株式の例に則ることが原則となります。

 

まとめ

 

ベンチャー企業の資金調達に係るファイナンス手法では、シードマネーとの親和性という観点から、コンバーティブル・エクイティの優位性についてお伝えしました。ただ、J-KISSもみなし優先株式も一長一短の性質を持っており、当てはめるケースは慎重に検討する必要があります。

 

しかし、日本でいまだ根付いているとは言い難いシードマネー供給の環境が、こういったファイナンス形態によって醸成されていくことは望ましいと言えます。負債性資本を入れる前のファイナンスとして、会社の資本を厚くしておきたいというニーズは経営者なら誰しも持っていることと思います。その資本政策の一環として、ベンチャーキャピタルなどの投資家に一定の配慮を示しつつ、さらなる成長に向けた適切な財務レバレッジを効かせる経営の実践が必要となるかと思います。

 

SBI CapitalBaseでは、成長意欲の高い可能性あるベンチャー企業の持続可能な成長を少しでもサポートするため、クラウドファンディングや仮想通貨を始めとしたマーケットやファイナンスに関連する情報を随時配信していきます。

 

※J-KISSやみなし優先株式の手法を採用する場合、日本においてはまだ運用が確立していない部分がございますので、必ずベンチャーファイナンスに精通した弁護士等のレビューを受けてから発行手続きを進めるようご注意ください。

 

参考:
J-KISS: 誰もが自由に使える、シード資金調達のための投資契約書
J-KISSのサマリー(500 Startups Japan)