【社長BLOG】STOと電子記録移転権利のあれこれ

GEMSEE

 3月の資金決済法・金商法の改正案が提出された直後に、「改正資金決済法・金融商品取引法による仮想通貨関連ビジネスの影響」という記事を書きました。1か月半経ち、ある程度見えてきた部分があるので今回は現時点における整理をアウトプットしたいと思います。

 

電子記録移転権利

 

 今回の金商法の改正案ではこれまで一般にセキュリティトークンと呼ばれていた投資性を有するトークンに「電子記録移転権利」という名称が設けられました。同時に「電子記録移転権利」の取扱いに関しても示されております。整理すると以下のような課題・特徴が見えてきます。

 

  • 仲介には第一種金融商品取引業が必要
  • 自己募集には第二種金融商品取引業が必要
  • 一項有価証券に分類されるため仮想通貨交換業者では取扱い出来ない
  • トークンの移転と実体法上の権利移転を連動させる必要あり

 

 もう少し掘り下げていきたいと思います。

 

「電子記録移転権利」はファンド持分のようなものとイメージされておりましたが二項有価証券ではなく、一項有価証券と整理されました。よって、二種業者では仲介することができません。

 

現時点では実務的な手続きははっきりしませんが、証券会社が「届出業務」として財務局に「電子記録移転権利」の取扱いを提出するのではないかと思われます。証券会社が「電子記録移転権利」を取扱う場合に想定される課題は、日本証券業協会の「未上場有価証券の勧誘規制(株や社債等)」です。

 

証券会社は自主規制で未上場株式等の勧誘を一定の条件下以外では禁止されております。例外は、株式投資型クラウドファンディング・株主コミュニティです。「電子記録移転権利」の商品性によりますが現行規制と同様に勧誘規制・取扱いの制限が設けられる可能性は否定できません。その場合、セキュリティトークンは「電子記録移転権利」として制度上は明確化しましたが、実務上は「使えない制度」となる恐れがあります。

 

株式や社債等の発行では発行体は、自己募集によって資金調達が可能です。「電子記録移転権利」の場合、「適格機関投資家等特例業務」「少人数私募」以外の方法では発行体による直接調達は難しいと理解しております。この点は有価証券としての使い勝手を評価した場合、マイナスです。また、原則開示規制の対象となるため発行体の負荷の増加に繋がります。これまでのICOのようないい加減な情報開示では許されなくなる、というわけです。

 

 当然と言えば当然ですが、「電子記録移転権利」は有価証券なので仮想通貨交換業者では取扱いができません。言い換えると、流動性の確保が著しく困難ということです。これまでの仮想通貨は発行と同時に取引所に上場され、流動性の確保が容易でした。

 

今後は有価証券として取扱われることによって、流動性の提供には金融商品取引所への上場が必要となります。しかしながら、仮想通貨取引所と異なり、金融商品取引所への上場は簡単ではありません。IPOの審査に何年も準備が必要なように、金融商品取引所は独自の上場基準を設けており、厳格な上場審査が存在します。

 

よって、これまでのICOトークンのような安易な流動性提供の可能性は低い、と考えられます。これは発行後の価格維持・キャピタルゲインの獲得に致命的な影響を与える要素となるので発行・取扱いには慎重な検討が求められます。

 

取引所のライセンスを持たない業者によるマッチングは一般的に私設取引システム(PTS)と呼ばれ日本では厳格な規制の対象となり、証券会社でも自由にマッチングさせることはできません。

 

日本のPTSは米国のATSに比べ基準が厳しく、運営者も2社のみで取引商品も取引所に上場されている商品に実質上制限されており、STOでは使い物になりません。よって、日本ではプライマリーで発行された「電子記録移転権利」のセカンダリーの流通性確保が大きな課題となることが予測されます。

 

 一般的に有価証券はその管理方法が定まっており、運用ルールが確立しております。株式であれば「株主名簿」が第三者対抗要件として機能します。

 

社債の場合は「社債原簿」が同様に機能します。上場有価証券でれば振替保管機関(ほふり)の振替口座簿のデータが正となります。「電子記録移転権利」の場合、どのような運用になるのか考えてみましたが、株式における「株主名簿」に相当するものはないので、トークンの移転と実体法上の権利移転を上手く連動させる仕組み(システム・ビジネスルール)が必要です。

 

ここをきちんと設計しないと後々、多くのトラブルが発生する可能性が存在します。「ほふり」に代わる「電子記録移転権利」の発行・管理の仕組みが求められます。

 

 トークン設計

 

 今回定義された「電子記録移転権利」は既存の集団投資スキーム持分のデジタル版のようなものです。「電子情報処理組織を用いて転移することのできる財産的価値」なんて言う分かり難い表現がされておりますが、大雑把な理解は「ファンド持分」や「証券化商品」が電子化≒トークン化したら、なぜか二項有価証券(みなし証券)ではなく一項有価証券(電子記録移転権利)になる、という理解で良いかと思います。

 

個人的には証券化≒トークン化と理解しております。両社の違いは発行・管理の裏側にある技術の違いです。「電子記録移転権利」は発行・管理にブロックチェーン・仮想通貨技術が応用され、財産的価値がトークンとして表現されております。

 

ここで重要な点として裏側で用いられる技術は有価証券の経済価値(期待収益)に直接的な影響を与えない、ということです。よくある誤解として、ブロックチェーン技術を活用すると流動性が向上する、というものがあります。技術的に可能なことと、実務上問題なくワークすることを混同している解説記事を見受けますが、しっかりと区別が必要です。

 

 そうすると既存の金融商品との差別化が見えにくくなります。「電子記録移転権利」の特徴として商品設計の自由度が挙げられます。改正案ではトークンの中身を制限する記載は見受けられませんでしたので工夫の余地があります。例えば以下のような特徴があるかと思います。

 

  • 投資家のリスクに応じた優先劣後設計
  • 有価証券とユーティリティトークンの性質を兼ね備えたハイブリッドトークン設計

 

 現状、トークン設計を制限する情報は公開されておりませんので、発行体は投資家のリスク許容度に応じて複数のトークンを発行することが可能です。資本性トークン・負債性トークンは設計次第ですし、投資家のリスク許容度に応じてトークン間で優劣を付けてリスクとリターンをコントロールすることも可能です。

 

また、過去のICOトークンのように何らかのサービスの利用券に相当する権利を付与することも禁止されていないので可能です。よって、証券化商品とICOトークンの性質を併せ持った独創的なデジタル有価証券を工夫次第で設計可能となります。

 

 従来のICOトークンと異なり、合法的に収益の還元が可能となるので多くのファンビジネスにおいて見られていた、投資家(ファン)と事業者(サービス提供者)が搾取関係に陥らずに、ファンと共に成長可能になる等の効果も期待でき、従来の金融商品と異なるユースケースが生まれるかもしれません。

 

プロジェクトユースケース

 

 トークンの設計の概要に触れたところで具体的なユースケース(プロジェクト)について目を向けてみたいと思います。個人的には以下の性質を有しているプロジェクトと相性が良いのではないかと考えています。

 

  • 社会性・公共性を有していること
  • ファン獲得やコミュニティ形成が可能なこと
  • 事業収益の還元とサービス利用のハイブリッドが可能なこと

 

 私募ではなく公募を前提とした場合、広く投資を募ることになります。必然的に公序良俗に反するような事業は認められません。同時にICOの要素を引き継ぎますが、トークンを所有するということは、資金調達目的であるプロジェクトのエコシステムに参加する・組み入れられることを意味します。

 

単純な純投資であれば株式の方が適していると思います。トークンの性質としてステークホルダーとしてエコシステムに関与する、ということが挙げられます。この考えはSTOにおいても継続されるものと考えます。

 

 先ほど、ファンビジネスにおいて搾取関係に陥らない設計が可能と記載しました。分かりやすい事例としてスポーツやアイドル・アーティストビジネスを考えてみてください。これまで野球やサッカーファンは個人として応援はできましたが球団の所有は出来ませんでした。

 

今後は、球団の持分をトークンとしてファンに保有してもらうことも可能です。今までは球団を保有しているオーナー企業の株式を保有するという間接的な方法が限界でした。今まで通り、球団運営は法人オーナーが担いつつ、ファンも個人オーナーとしてビジネスを盛り上げつつ、優待や事業収益の還元を受けられる仕組みを構築することが可能です。

 

 アイドルやアーティストビジネスもこれまでは一方方向な応援でしたが、今後はアイドルやアーティスト自身がトークンを発行することでベクトルが双方向となりWin-winな関係が構築できるのではないかと思います。

 

ファンはこれまでの関係でも満足かもしれませんが、自分が応援してきたアイドルやアーティストが成長しブレイクした際に、特別な優待や事業収益の還元を受けられるのでれば、趣味と投資がリンクします。このような考え方はこれまでの金融商品にはなかった概念かと思います。

 

 公共性・社会性を有しつつ前述のサービス利用も受けられるハイブリッドトークンの事例としては、途上国における都市開発プロジェクトなどが考えられます。

 

この場合、スキームはプロジェクトファイナンスに類似します。プロジェクト型の場合は償還期限を設けても良いと思います。トークンの種類も固定クーポンのものと事業実績に応じた変動クーポンに分けることも可能であり、ユーティリティ特典として現地のホテルの宿泊やレストランの利用、特別な現地体験などを付与することも可能です。

 

上記ユースケースでは日本の余剰資金を海外の有望な事業開発に投下することで、プロジェクトを通じて新しい産業の育成や雇用の創出を実現しつつ、投資家をエコシステムの内側に巻き込みプロジェクトの支援者に仕立てることも可能です。純粋なキャピタルゲイン・インカムゲインだけではなく、サービスの優待というオマケも享受可能であり、前述の社会性・公共性、ファン獲得、ハイブリッドの要素を満たすことが出来そうです。

 

 他にも工夫次第でこれまでの金融商品では提供できなかった価値の創造が可能になると思います。色々と使い勝手に難のある今回の改正案ですが上記のようなユースケースの探究によって、付加価値を高めることが出来れば金融商品の新しいジャンルとして確立されるのではないかと考え、そのように願います。

 

CapitalBaseのポリシーの一つに「既存の商習慣に捉われることなく、市場ニーズに適合する最適な金融サービスを実現し、持続的な成長を目指す」という考えがあります。STOはポリシーとの合致という意味でも当社の事業領域と言えますので、今後も継続的に調査・研究を進め、実用化に向けていきたいと思います。

 

本テーマは書き出すと長くなりそうですので今回はこの辺で区切ります。マニアックなテーマですが需要がありそうであれば頭の整理がてらアウトプットを継続したいと思います。