【社長BLOG】続・ユニコーンの成長と資金調達について

GEMSEE

 

 今年の2月に「ユニコーンの成長と資金調達について」というタイトルで記事を投稿しました。3か月程経過しましたが、記事の中で「ユニコーン」と呼ばれる大型ベンチャー企業に関して言及した事項について、いくつかのリスクが顕在化しつつある状況が発生しつつあるので、補足していきたいと思います。

 

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未公開市場と公開市場の評価基準ギャップ


 前回の投稿で、ユニコーンと呼ばれるベンチャーが生まれる構造、抱えるリスクに関していくつか言及いたしました。要点を列挙すると以下の通りです。

 

ユニコーンが生まれる環境要因

  • 金余りによる過剰流動性の存在
  • VCファンドの大型化、投資基準の低下
  • 投資家の赤字許容度の拡大

 

ユニコーンが抱えるリスク

  • 過剰投資による赤字の継続(成長優先)
  • 収益化までの期間の長期化
  • 巨額資金調達を前提とした経営
  • 参入障壁が低いビジネスモデル

 

 ベンチャーを叩く意図は全くありませんが、上記だけを見ると危うい状況が見受けられます。前回の投稿では、個々のベンチャー企業ではなく、市場全体が抱えるリスクとして「マーケットの変動による投資資金の逆回転」・「上場後の市場との対話、市場圧力のコントロール」について言及しています。つい先日上場した、「ウーバー・テクノロジーズ」の株価の初動を見る限り、市場は既に臨界点で正に”薄氷を履むが如し”と言えます。

 

 Uberの事例では、ユニコーンと呼ばれるベンチャー企業が、これまで比較的緩い資金調達環境で成長してきたこと、未公開市場と公開市場において求められる(評価される)ポイントが異なることが分かります。

 

 過剰流動性によって支えられたベンチャーは、調達ラウンドを重ねる毎に推定時価総額を拡大させます。(稀にダウンラウンドと呼ばれる事象も発生しますがここでは割愛します。)ある種特別な環境で育ったベンチャーは、これまでとは異なるルールの世界(上場)を目指す際に、市場評価の壁にぶつかります。

 

 未公開市場と公開市場では、投資家層が大きく異なります。公開市場には、単にリスク許容度が低い投資が多いと整理することはできません。公開後の株価の変動は、これまで成長期待の裏に隠れていた、収益性・事業リスク等の要因がバイアスなしでよりフラットな目線で評価されることを意味します。未公開時期に付けられた推定時価総額のプレミアムが本物か、それとも環境依存であったかが評価されるわけです。

 

 今年はUberに限らず、大型ユニコーンがいくつも上場を予定していると言われています。今後もこのような事例は発生すると思いますし、その度に議論されるテーマかと思います。その過程を通じて適切なベンチャー投資の在り方や企業価値の評価について議論されることを期待します。

 

未公開市場と公開市場の溝


 ここ数年のベンチャー企業の資金調達状況を俯瞰すると、投資が投資を呼び込む状況が続いており、一定以上の評価(推定時価総額)を獲得すると、より資金調達が加速する”ユニコーンプレミアム”とでも呼ぶべき状況が見られます。要は勝ち馬に乗るということですが、ラウンドが進むにつれ調達金額・推定時価総額は増加します。

 

 しかしながら、評価に見合った事業収益を確保できている事例が少なく、投資家は成長期待にプレミアムを支払っている建付けで自己の投資を正当化します。

 

 当然、期待通りの成長を実現し、数年後には大きな収益を生み出す事業に成長するビジネスもありますが、最近の傾向としては出口が見えにくいビジネスが多いことが挙げられます。上場企業であればPER/PBR/ROEなどの指標がお馴染みですが、未公開のベンチャーを測る物差しとしては適切ではありません。

 

 では何を根拠に投資判断・株価の算定をしているのか?という話になりますが、一般にシード・アーリーステージのベンチャー企業が作成した事業計画の収支予測の精度は、何もないよりはマシ、というレベルであり、上場時の目標(想定)時価総額も希望の話に過ぎません。どちらも数あるシナリオの中の一つのケースでしかありません。

 

 結局の所、未上場企業への投資は相対取引であり、上場企業のような価格形成プロセスは望めないため、調達タイミングのマーケット環境の状況に左右されます。マーケットが冷え込んでいる環境であれば、どんなに筋の良いベンチャーでの外部調達は苦戦します。逆に、マーケット全体が拡大基調にあるときは、幅広い企業に投資が実施され、調達金額も大きくなることが多いです。

 

 このような業界構造は昔から存在するものであり、直近で何か大きな変化があったわけではありませんが、強いて言うと、”以前より未上場と上場の間に存在する溝が深く鮮明になった“ということです。

 

 論理的な言葉で表現するのが難しく曖昧な感覚なのですが、ここ2年くらいは特に感じています。業界毎に独自の評価手法・基準が存在するのは、実務上の必要性に起因するものかと思いますが、関連する業界を繋ぐ共通言語や橋渡しとなる基準が求められているのではないでしょうか。

 

 今後は、上場ディスカウントを忌避して上場しないことを選択するベンチャーも増えるかもしれません。その場合、上場とは異なる投資家の出口を起業家は用意する必要があります。株式に流動性はなくても、十分なキャピタルゲインを獲得可能な水準で売却できれば投資家との交渉は可能ですが、現状のマーケットの仕組みではそのような出口は用意されていません。

 

 SBI CapitalBaseは、ベンチャー企業の資金調達と出口戦略のサポートをミッションとしており、上記に関しては常々何か良い案は無いかと検討しておりますが、想像以上に整理が難しいテーマであり解を得るに至っておりません。もしかしたら現状の株式会社という組織形態の前提から疑ってかかる必要があるかもしれません。突き詰めると、「未公開の営利組織が資金調達できる手段と利益確定の場の確保」となります。これは既存フレームの延長で考えても答えが出ないテーマであり、組織や社会の在り方が問われる課題です。持論を展開しだすと長くなるので、本テーマはいずれ別の機会で取り上げることにします。

 

キャズムを超えた先


 マーケティング理論の一つに「キャズム理論」というものがあります。イノベーター理論をベースにユーザーをセグメント分けし、アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間に存在する溝をどう乗り越えるか、というものです。テック系ユニコーンの場合、国内・国外の市場において相応のユーザー数を抱えるに至っており、顧客層にはメインストリームのユーザーも含まれています。一般にキャズムを超えた段階で市場は急速に成長し、収益化を実現していくフェーズと言われています。

 

 昨今のベンチャーが提供するサービスを俯瞰すると、数千万人~数億人ものユーザーが存在しても収益化が全く見えていない(と思われる)サービスも見受けられます。決算から成長投資分を差し引いた数値がプラスで推移しているビジネスは意図的な決算であり、戦略的赤字と判断できます。逆に相応のユーザーを抱え、サービス維持に一定のコストが発生している事業において、サービス単体で収支を見た場合にマイナスで推移している場合は危険です。

 

 以前は、サービスの拡大(ユーザーの獲得)と収支は、比較的シンプルな正の相関関係にありましたが、近年は必ずしも事業の成長と収益が連動しないビジネスの比率が増えたと感じます。ビジネスモデルの多様化で「本業のサービスを無料化し周辺サービスや広告等で収益を上げるパターン、蓄積されたデータをマネタイズするパターン、フリーミアムで無料と有料を併存させるパターン」など、Webベースのビジネスにおける収益モデルが多様化していることが一因に挙がります。

 

 収益化の多様化は歓迎ですが、ここでのポイントは、構造的にサービスが拡大しても黒字化しない(極端にしにくい)事業設計になっていないかを初期段階で検証することです。ある程度事業が拡大すれば収益は後から付いてくる、という考えのWebサービスは意外と多いですが、ユーザー獲得の前提がサービスの無料化に依存し、事業参入障壁が低くユーザーのスイッチングコストが低い場合、マネタイズに傾けた場合に一気に顧客が離れる可能性があります。

 

 一般にプロダクトを開発する際に、「MVP(Minimum Viable Product)」を早期に目指す、ということが語られます。近い概念でよりユーザーの抱える課題・タスクに注目した考えとして「ジョブ理論」というイノベーションの考えがあります。プロダクト・事業モデルを検討する際は上記に共通する「ユーザーのJob(タスク)」の解消に焦点を当てることが必要であり、マネタイズが上手くいかないビジネスはその欲求・課題を押えられていない可能性が高いと考えられます。

 

 通常、起業家を目指す方は、その手のイノベーション・マーケティング知識を熟知している方が多いですが、復習の意味でも自身が立ち上げるビジネスをユースケースに、そのサービスの必要性・解決する課題・成長プロセスを検証してみることは有用です。

 

 昨年、ICO相談会を実施していた際に、実に多くのベンチャー企業から相談を受けましたが、上記の観点が抜け落ちている事例も見受けられました。(ICOの場合は、ブロックチェーンサービスを立ち上げることが目的となってしまい、手段の目的化に陥っていた案件が多いので、解決する課題がクリアになっていなかったと言えます)

 

 話を戻すと、サービスが成長しているように見えた時、単体収益が確保出来ているか(目処が立っているか)、ビジネスモデルが破綻していないか、前提条件がおかしくないか、ユーザーの課題を解決するサービスとなっているか等、一定のチェックポイントに照らし合わせることで、事業価値と推定時価総額のギャップを評価する際に軸の一つとなります。

 

 もちろん、市場規模や成長率、参入障壁の有無など見るべき観点は尽きませんが、外部要因分析に加え、プロダクトとビジネスモデルという内部要因の精査が必要です。本質的な事業価値に関わらず、未上場段階の推定時価総額はマーケットの影響を大きく受けるものなので、投資家としては参考値程度に留めておく必要があります。

 

 事業の成長を測る指標の一つとして、そのサービスが日常生活における「インフラ」として機能しているかどうかという目線があります。あるサービスを評価する際に、単に無料なので利用されているのか、生活の一部に溶け込み不可欠なサービスとして浸透しているかが基準となります。

 

 分かりやすい事例だと、Facebookはコミュニケーションのインフラとして、Amazonはショッピングのインフラとして多くのユーザーにとって不可欠な存在です。あったら嬉しいサービスより、より本質的な欲求に起因するサービスは強いということが、Facebookは繋がりたい・承認されたいという欲求、Amazonは様々な物欲をそれぞれ刺激していることから分かります。

 

 起業家は、サービスを立ち上げる際に、上記の「WantとNeed」の違いを意識いただければと思います。私が起業家の方と面談する際も、本記事で記載されたような視点は網羅的にチェックしています。昨年のICO相談会に代わる、資金調達に関する継続的な相談会の開催を近々予定しております。個別ビジネスに関するご相談はそちらで受けたいと思います。