企業の評価指標 ー上場企業とスタートアップの決定的な違いー

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SBI CapitalBaseリサーチ担当のファラロンです。

 

最近は、ベンチャー企業のなかでもとりわけ有望なスタートアップ企業が資金調達を成功させて、メディアに紹介される事例なども増えてきました。しかし、企業が資金を外部から調達するためには、もちろん自社の安全性や収益性を調達先に示さなければなりません。

 

そのために企業には評価指標があり、PERやPBR、ROEといった上場企業の一般的な評価指標は、株式を取引する個人投資家の方々などはご存知かと思います。

 

そこで今回は、スタートアップ企業と上場企業を比較して、その評価指標にどのような違いがあるのかを解説します。

企業を評価するには指標の意味を知る

企業の評価指標として一般的なものは、安全性・収益性・成長性を測るものです。銀行や証券会社、ベンチャーキャピタルなど、各機関によってどの分野を重視するかは異なりますが、基本はこの3分野に則って企業の状態を把握します。

安全性

企業の支払能力を指し、主に負債の返済能力を言います。ストックとフローに分類でき、それぞれの資金の性質に対応した資金繰りができているかを分析します。

 

ストックとは、主に流動比率や固定比率、自己資本比率などが該当します。どれもデフォルト(債務不履行)にならずに操業できているかを計測するものです。

換金性の低い資産(固定資産)を返済期限の短い負債(流動負債)で賄っていないか、借入をせずに総資産を自己資本でどれだけ賄えているかなどを見ます。

 

フローとは、キャッシュフローを見ることで営業・投資・財務の活動が適切に行われているかを計測します。

本業で得られる収支、固定資産や株式などの売買による投資、融資の返済や配当金の支払いなどの財務の活動を通じて、企業のキャッシュ創出能力が支出を上回っているかどうかを見ます。

収益性

売上から費用を引いた利益率の効率性を指します。売上高営業利益率、売上高当期純利益率、ROA、ROEなどが該当します。

売上高から各プロセスで発生する費用を引いた利益額の売上高に占める割合や利益を上げるために資本をどれだけ効率的に用いているかを計測します。特にROEは、株主に帰属する経営指標として上場企業では重要視される指標です。

 

現在に至るまでの成長実績と今後の成長可能性を判断します。売上高成長率や当期純利益伸び率、純資産増加率などが該当します。

売上高や当期純利益の前期比の伸び、負債を除いた企業活動を通じた純資産の伸びを計測します。これにより、企業の伸び率の傾向や今後の計画策定などに役立ちます。

 

ここで一般的な評価指標を下記の図1にてご紹介します。

図1 各分野の主な評価指標一覧

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余談ですが、株式取引でよく見られるPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)は、企業の稼ぐ力や実際の資産がマーケットにどれだけ評価されているかを見る指標となっています。こちらは投資性を判断する指標となっているため上記に含めていません。 

スタートアップ企業の見方

企業の評価指標について説明しましたが、ここではスタートアップ企業に有用な指標について解説します。

CMGR(Compound Monthly Growth Rate:月平均成長率)

スタートアップでは、可能な限りその動きを細かく分析する必要があります。そこでよく用いられる指標が月次の成長率を計測するCMGRです。

これは一般的に用いられるMoM(Month over Month:月次成長率)とよく比較されます。MoMは単月の成長率を測定するものですが、一定期間のMoMを平均すると数値のばらつきに左右されてしまうという問題があります。

しかし、CMGRではこのばらつきを綺麗に均すことができます。VCがより正確な企業の成長率を図るときは、MoMの平均を取るのではなく、CMGRによる伸び率を見ます。

また、近似した指標としてCAGR(Compound Anual Growth Rate:年平均成長率)がありますが、こちらは上場企業等を評価する際に用いられ、ベンチャー企業を評価する指標としてはあまり用いられません。

それは、ベンチャー企業の成長を測るのに、年間単位では適当でないと判断されるからです。

 

用途としては、単月の比較はMoMを使用し、四半期など期間平均を見る場合には福利計算されるCMGRを使用するといったケースが想定されます。

 

Burn rate(資本燃焼率)

スタートアップ企業は財務基盤が盤石でないことが多く、基本はコストの方が超過していることや内部留保が潤沢でないことがほとんどです。

その際に、企業が1ヶ月の操業に掛かる費用を計算する指標がBurn rateです。この指標はスタートアップ企業でよく用いられる指標で、端的に言えば資本燃焼率の言葉通り企業の体力がいつまで保つかを見るものです。

 

Burn rateには、Gross Burn rate(GBR)とNet Burn Rate(NBR)の2つがあり、通常はNBRを重視します。両者の違いは、Burn rateに収入を加えるかどうかになります。

 

例として、1年で3600万円のコストの掛かるスタートアップ企業に1200万の収入があるとします。

 

GBR:3600万円/12ヶ月=300万円

NBR:(3600万円-1200万円)/12ヶ月=200万円

 

上記の例に加えて、2000万円の資金が口座にあるとすると、

2000万円/200万円=10ヶ月

 

10ヶ月で企業の資金は底をつくため、新たな資金を調達しなければならないことがわかります。

 

収入がGBRを超えてNBRがマイナスになることで企業は黒字化します。NBRがプラスのうちは、その企業は恒常的に死んでいる(常に体力を減らし続けている)と表現されます。

 

Burn rateは企業の寿命を測るための指標ですが、これが高いこと自体が悪材料とされるわけではありません。

Burn rateが高いにも関わらず口座に資金が確保できていない、キャッシュフローリスクのヘッジ(売上債権回転率の減少等)やマイルストーンの未達などが問題となります。

資金確保については後者の経営努力で改善される部分がありますが、そもそもマイルストーンの未達などは経営能力を疑われるため、Burn rateが高い状態では次の資金調達に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。

 

また、Burn rateの削減のためにコストカットを実施したことで、事業の収益化が遅れる場合はVCの評価が悪くなる可能性もあります。Burn rateはあくまでもひとつの経営指標であり、これを気にして設備投資を渋っていては逆に効率的とは言えません。

 

Contribution Profit(CP:貢献利益)

CPは利益率を測る指標の一種で、売上高から変動費のみを引いて計算されることから限界利益とも呼ばれます。

事業部門などの責任単位ごとに発生する変動費を差し引いて計算するため、各部門がどれだけ会社に貢献しているかを測ることができます。

特に小規模な組織で属人的な傾向が強いスタートアップ企業で用いられることがあります。業績管理の意味合いもあり、各部門に帰属する費用は明示的なものに限られます。

 

一般的な事業会社の評価には、Operating Profit(営業利益)が用いられますが、スタートアップ企業ではこちらが重視されることもあります。

主に製品やサービスの競争力を測るときに用いられます。

 

 ※ProfitとMarginは厳密には意味が異なります。Profit(利益)は絶対額のことで、Margin(利益率)はパーセンテージを示します。ここが、スタートアップ界隈のみならず混同されがちなので注意が必要です。

パフォーマンスやスピードが最重要

スタートアップ企業の経営では、なにより一定のパフォーマンスをどれだけ早い期間で成し遂げられるかが重要な評価ポイントになります。

そのため、評価指標もタイムスパンの短いものが多く、その短い期間内で効率性・成長性を評価します。スタートアップは生モノであり、多くの経営者が日々頭を悩ませてグロースのために日夜活動しています。

あくまで、評価指標は実績に基づく計算結果であり、これを基にしたディスカッションが重要になる場合も多々あります。

また、スタートアップ企業によっても経営方針や人材などの特色がまったく異なることもあるため、定性的な評価のウェイトも高いと言えます。

 

上記を踏まえたうえで、今回はスタートアップ企業がグロースしていくなかで重要とされる指標について解説しました。

上場企業では事業基盤の強さや経営の効率性、自己資本に基づいた安全性など保守的な数値も重要であるのに対し、スタートアップ企業では短期間での伸び率やキャッシュフローの動きなどが重視されます。

両者では、資本効率性の考え方が根本的に異なると言えるでしょう。